2024.03.12
馬刺しの霜降り肉とは?馬肉の歴史から品種による肉質の違いまで解説
馬刺しは、部位によってさまざまな味わいを楽しめますが、人気部位のひとつが霜降りの馬刺しです。口に入れれば、とろりとした脂の甘みと肉本来の旨味を堪能でき、魚の刺身は苦手でも食べられるという方も少なくありません。
この記事では、馬肉の歴史や馬の品種による肉質の違いまで詳しく解説しています。記事の後半では、馬肉のおいしい食べ方についても触れているので、馬刺しをはじめご家庭で馬肉料理をおいしく食べたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
馬肉・馬刺しの歴史について
馬は、主に人が移動する際や農耕機を動かす際に使用されていた動物です。馬肉を食べる文化は古くから根付いており、およそ2,000年以上前から馬肉を食べられていたとされています。
庶民の口に入るようになったのは江戸時代ごろからで、食料としてはもちろん、滋養強壮によい薬膳料理として認知されていました。また、民間療法では馬肉を湿布のように扱われることもあり、使用すれば火傷の患部の解熱作用があります。
馬刺しの発祥は諸説ありますが、およそ400年前に肥後藩初代藩主の加藤清正が朝鮮出兵していたときとされています。食料難に陥った際に仕方なく軍馬を食べたもののあまりのおいしさに驚き、帰国後に馬肉や馬刺しを好んで食べたそうです。
熊本と馬肉の関係
熊本は馬刺し発祥の地といわれており、当時の肥後藩の初代藩主である加藤清正が好んで馬肉や馬刺しを食べていたことが由来とされています。熊本の馬刺しの特徴は、しっかりと馬肉に入った脂肪分(サシ)です。
熊本の馬刺しで使用される馬肉は800kg〜1tにもなる『重種馬』と呼ばれる馬からとれるもので、口に入れたらとろけるような脂の甘みと旨味を味わえるのが特徴です。食べ方は、薄切りの馬肉に薄切りの玉ねぎやおろししょうが、おろしもしくはスライスしたにんにくなどの薬味と一緒に甘口醤油で食べます。
福島と馬肉の関係
福島県の会津地方は、日本国内でも有数の馬肉料理がさかんに食べられている地域です。なかでもとくに馬刺しが有名で、熊本が霜降りの馬刺しなのに対し、福島は赤身の馬刺しという特徴があります。
福島の馬刺しで使用される馬肉は、サラブレッドやアラブ種など400〜600kgほどの『軽種馬』と呼ばれる馬からとれるものです。脂が少なくさっぱりとしていますが、食感はやわらかくしっとりとしているのが特徴です。
会津の馬刺しは、からし味噌を醤油に溶いて食べる方法が一般的で、にんにくと唐辛子が効いたピリッとした味わいが楽しめます。
その他の地域と馬肉の関係
熊本や福島以外でも馬肉を食べる地域はいくつかあります。青森県は、馬肉の生産量が熊本や福島に次いで多く、主に青森県南部を中心に馬の産地として発展してきた歴史があります。
山梨県では富士吉田市の名物である吉田うどんがあり、甘辛く煮た馬肉の薄切りがトッピングされているのが特徴です。山梨県のお隣の長野県でも馬肉文化が根づいていて、南信州の伊那市や飯田市の地域では、食肉といえば馬肉というくらい昔から日常的に食べられていました。
また、伊那の方では『おたぐり』という馬のモツの煮込み料理が郷土料理として親しまれており、クセがありますがお酒のおつまみに最適の味わいです。現在では、日本各地でも馬肉が食べられることが多く、スーパーによっては馬肉を取り扱っている場合もあるため、気軽に馬肉料理を楽しめます。
馬肉の霜降りの特徴
馬肉にはさまざまな部位がありますが、おおまかに分けると脂が少ない赤身の部位と脂が多い霜降りの部位の2種類です。それぞれに肉質や味わいのよさが異なるため、人により好みも分かれます。ここでは、馬肉の霜降り肉に焦点をあてて特徴を紹介します。
馬刺しの赤身と霜降りの違い
馬刺しで人気の部位の赤身と霜降りは、それぞれで違いがあります。赤身は、脂肪がほとんどない部位で、歯ごたえがよく肉の旨味を感じやすいことが特徴です。一方で霜降りは、肉に脂のサシが入っているためやわらかく脂の甘さを堪能できる特徴があります。
どちらの部位も調理法を選ばずおいしく食べられますが、あえていえば鍋のような調理法であれば、やわらかく食べやすい霜降り肉の方が適しているでしょう。
味わい
馬肉の霜降りの味わいの特徴は、なんといっても脂の甘みと旨味を楽しめるところです。また、しっかりとサシが入っているのにもかかわらず、牛肉の霜降りよりもしつこく感じにくい特徴があります。
その理由は、牛肉よりも脂の融点が低いことです。融点が低いほど口の中に入れた瞬間に脂が溶けるため、しつこさを感じにくく食べ進められます。
におい
霜降り肉をはじめ、新鮮な馬肉であれば気になるにおいは感じられません。一方で、馬肉の鮮度が落ちるほどにおいが出やすく、ひどいものだとアンモニア臭を感じることもあります。また、霜降り肉であれば、脂が酸化した酸っぱいにおいも感じられます。
基本的にはくさみがない肉のため、人によっては魚の刺身は食べられなくても、馬刺しであれば食べられるという方もいるほど、においのクセがありません。
見た目
赤身の馬肉は名前のとおり赤い色をしていますが、霜降りはサシが入っておりピンクがかった色が特徴です。赤身の肉は牛肉に比べてやや赤さを強く感じられますが、霜降りに関してはほとんど牛肉の霜降りと変わらず、さほど違いはありません。
産地と品種による肉質の違いは?
日本各地に馬肉の産地があり、生産量No.1の熊本を筆頭に福島や青森、長野などが挙げられます。熊本の馬肉のように国産種もありますが、最近では馬肉の需要が全国的に高まってきた影響で、海外から仔馬を輸入したり海外で食肉加工された馬肉を輸入したりするケースもあります。
そのため馬肉は、産地や品種によって味わいや肉質が大きく異なります。ここでは、純粋な熊本産の馬刺しについて、品種と育て方で霜降り具合が変わること、馬脂肪注入の冷凍馬刺しについてそれぞれ紹介していきます。
純粋な熊本産の馬刺しとは
現在日本では、どこでも気軽に馬刺しを食べられる環境になりましたが、完全国産の馬肉を使用した馬刺しは一部でしか食べることができません。なかでも熊本産の馬肉は純粋な馬肉といわれており、ブランド価値が高い馬刺しとして有名です。
そもそも純粋な馬肉とは、日本で産まれた仔馬を日本で一から育てて食肉加工を行った馬肉を指します。熊本県産の馬刺しであれば、熊本県で産まれた仔馬を1年半から3年ほどかけて生育・出荷をして馬刺し用に食肉加工されたものを『熊本県産馬刺し』と名乗れます。
一方で『熊本馬刺し』と表記されている物は、海外や他県で産まれた仔馬を一定時期だけ熊本県で生育・出荷をして食肉加工されたものです。
また、生育期間がもっとも長い場所を製品に記載する必要があるので、たとえ熊本県で加工されていても、長野県での生育期間が長かった場合は『長野県産』や『国産』と表記しなければなりません。
馬の品種が同じで良質な飼料とよい環境で生育すれば、味を損なうことはありませんが、国産の馬刺しや熊本県産の馬刺しを求める方はこの基準を覚えておくことをおすすめします。
品種と育て方で霜降り具合が変わる
現在日本で食べられる馬肉の原産の多くは、国産、カナダ産、南米産です。国産の馬肉はやわらかく口当たりのよいことや馬肉本来の旨味が強いことが特徴で、カナダ産の馬肉は、国産よりも脂乗りが多く、ねっとりした口当たりと味わいが特徴です。
一方南米産は、国ごとに細かく異なりますが、おおまかにいえばさっぱりとした味わいで比較的安価に入手しやすいことが特徴です。ここまで大きく馬肉の特徴が異なりましたが、産地の違いだけではなく、馬の品種と飼料の違いも大きく関係しています。
食用馬の種類はおおまかに分けると『軽種馬』と『重種馬』の2種類です。軽種馬はサラブレッドやアラブ種などで体重は400~600kgほどに成長し、日本では福島県が、海外ではアルゼンチンなどの南米が産地として挙げられます。
一方で重種馬はブルトンやベルジャン、ペルシュロンなどで体重は800kgから1tを超える大型馬を指し、日本では熊本県が、海外ではカナダなどが産地として挙げられます。霜降りの馬肉にするには、牧草などの草類以外に大麦やトウモロコシ、ふすまなどの穀類やえごまなどを配合して作られた飼料を与える必要があります。
馬脂肪注入冷凍馬刺しについて
霜降りの馬肉は、馬の品種と飼料により肉質が異なると先述しましたが、そもそも馬肉の霜降りは馬肉の部位の中でも希少部位なので、決して多くはとれません。そのため、赤身やほかの部位に比べて高額になりがちです。
そこで、もっと手軽に霜降りの馬肉の味わいを楽しめるように『馬脂肪注入冷凍馬刺し』が登場しました。馬脂肪注入冷凍馬刺しとは、熱を加えて液状化させた馬の脂を塊の赤身の馬肉に注入し、冷凍して作られた人工的な霜降りの馬肉です。
スライスした見た目では霜降りの馬肉と遜色なく、きれいなサシが入っています。食感や味わいは天然の霜降りの馬刺しに近く、とろりとした食感と脂の甘みを感じられます。
ただし、販売をする際や飲食店で提供する際は、必ず『馬脂肪注入馬刺し』の表記を行わなければなりません。そのため、実際に霜降り馬刺しを購入または注文する場合は、天然の霜降りか馬脂肪注入馬刺しかをきちんと確認をしておくことを念頭に置いておくとよいでしょう。
馬刺しの解凍方法
馬肉を購入してご家庭で馬刺しを用意する際は、馬肉を解凍する必要があります。一般的に販売されている馬肉は冷凍品が主流のため、食べる前に必ず解凍を行います。実際に解凍を行う場合、主な方法は以下のとおりです。
- 氷水解凍
- 流水解凍
ここでは馬刺しの解凍方法を解説します。
食べる直前までは冷凍保存
馬肉を食べる際は、食べる直前までは冷凍しておくことが重要です。まず前提として、生食用の馬肉は国産や海外産にかかわらず、法律により冷凍することが義務づけられています。
食肉加工後、48時間以上かけて冷凍させることで中心まで凍結し、安全性を保って流通できるようになります。馬肉の製品はだいたいが小分けにされており、外気などの気温差の影響を受けやすいため、なるべく温度変化の少ない冷凍庫で保管しておくことが大切です。
また、食べる直前に解凍を行うことで馬肉から出るドリップが最小限に抑えられ、風味や味わいを損ねにくくなります。
氷温解凍がおいしさの秘訣
馬肉のおいしさを保つのであれば、氷温をキープして行うことが重要です。理由は、解凍の際に温度差が生じると馬肉の色味や味わい、食感を損ないやすくなるためです。
肉を解凍する際に赤い汁が出ることがありますが、これはドリップと呼ばれる肉汁で、出すぎると肉本来の旨味や風味が薄くなってしまいます。いかにこのドリップを出さずに解凍できるかで馬肉の質が大きく変わるため、おいしい馬肉を食べたい場合は、氷温解凍を意識して解凍を行ってみてください。
氷水解凍
解凍方法のひとつめは『氷水解凍』です。氷水解凍とは、0度に近い温度の水にパッキングされた馬肉を入れてゆっくりと解凍する方法を指します。解凍まで少し時間がかかりますが、温度差の影響をもっとも受けにくいため、馬肉の色味や肉の旨味、食感を保ちつつ解凍ができます。
肉の大きさや室温にもよりますが、馬刺しとして食べる際はおよそ60分を目安に、まだ肉の硬い半解凍状態になるまで解凍を行ってみてください。
流水解凍
解凍方法のふたつめは『流水解凍』です。流水解凍は、名前のとおり水道などから出る流水を使用して行う解凍方法を指します。ボウルの中にパッキングされた馬肉を入れ、流水を当てるだけなので簡単に解凍できます。
また、流水解凍は5~10分ほどで素早く解凍できるため、すぐに馬肉を食べたいときなどに重宝する方法です。ただし、肉全体を解凍してしまいやすく、氷水解凍に比べてわずかに味が落ちるため注意が必要です。
半解凍でスライス
解凍した馬肉を馬刺しにする場合、解凍する際は半解凍にしておくのをおすすめします。理由は、好みの薄さに切り分けやすく、作業を行いやすいからです。生肉の状態で包丁を入れると肉自体が動くため切りにくく、思っているよりも分厚く仕上がりやすくなります。
半解凍であれば馬肉は動かず、なおかつ力を入れれば包丁はすんなりと入るため、薄さの調整がしやすく切り口がきれいに仕上がります。馬肉を切るコツは、肉の繊維に対して垂直に包丁を入れることです。肉の繊維をうまく断ち切ると口当たりがよくなり、馬刺しの旨味や甘みをより感じやすくなります。
馬刺し以外の馬肉のおいしい食べ方は?
馬肉といえば、食べ方として馬刺しがよく知られていますが、馬刺し以外の調理法でもおいしく食べられます。馬刺し以外のおいしい食べ方は、主に以下の5つの調理法です。
- 馬肉のカルパッチョ
- 馬肉のタタキ
- 馬肉のユッケ
- 馬肉のステーキ
- サクラ鍋
それぞれ順番に解説していきます。
馬肉のカルパッチョ
馬肉のカルパッチョは、馬刺しと同じく生食の調理法です。カルパッチョとは、イタリア料理の一種で、薄切りにした生の牛肉や鮮魚をにんにくやオリーブオイルで味付けした料理です。
ご家庭で作る場合は、薄切りの馬肉に塩、こしょう、オリーブオイルで和えて醤油やポン酢、バルサミコ酢などをかければ簡単に作ることができます。好みの野菜と食べれば、さっぱりとした味わいと馬肉本来の旨味を感じられるため、馬刺し以外で生食を楽しみたい方におすすめです。
馬肉のタタキ
馬肉のタタキは、生の馬肉のよさと焼いた馬肉のよさの両方を楽しめる料理です。タタキといえば高知県の名物であるカツオのタタキが有名ですが、馬肉で作ってもとてもおいしく仕上がります。
調理する際は、油を敷いたフライパンでブロックの馬肉を全面に軽く焼き色がつくまで焼き、粗熱が取れたら食べやすい大きさに切り分けます。
醤油やポン酢などのタレとしょうが、にんにくなどの薬味を添えたら完成です。馬刺しによく使われる甘口醤油などでもおいしく食べられるため、馬刺し好きな方にも好まれる調理法です。
馬肉のユッケ
馬肉のユッケは、生の馬肉の旨味と濃厚で甘辛いタレがマッチした料理です。一般的にユッケは生の牛肉を使用することが多いですが、馬肉で作ったユッケは脂がくどく感じにくく、おつまみに最適な味わいになります。
ご家庭で作る際は、細切りにした生の馬肉に醤油、砂糖、コチュジャン、ごま油で味付けしたタレと和えてお好みで刻みネギや卵黄を添えたら完成です。霜降りの馬肉で作れば、より脂の甘みを堪能できる逸品になります。
馬肉のステーキ
牛肉とも異なる味わいの馬肉のステーキは、生で食べるよりも肉の味が濃く、肉の香ばしさも楽しめる料理です。部位により味はさまざまですが、赤身の馬肉であればさっぱりとしつつもダイレクトな肉の味わいを感じられ、霜降りの馬肉であればとろりとした脂の甘さと旨味を感じられます。
調理の際のポイントは、馬肉を焼き過ぎないことです。馬肉は生でも食べられるため、通常のステーキよりも焼き時間は控えめで構いません。また、火を通し過ぎると馬肉がパサつくので、レア気味に焼くことをおすすめします。
サクラ鍋
サクラ鍋は、馬肉を使って作られた鍋料理で、馬肉の色が赤身を帯びた桜色だったことが料理名の由来とされています。味噌味や醤油味など地域により味つけはさまざまです。具材は、馬の脂で炒めた馬肉とごぼうに、にんじんやきのこ、長ネギなどを入れて作ります。
調味料のベースは酒、みりん、砂糖に醤油または味噌を加えて作り、少し甘みを感じるくらいに仕上げると馬肉や野菜と味がまとまりやすくなります。霜降りの馬肉で作れば、やわらかい食感で脂の旨味を十分に感じられるサクラ鍋に仕上がるでしょう。
馬刺しの霜降り肉のように馬刺しにはいろいろな部位があります。こちらの記事では、馬刺しの部位による値段の違いや特徴を解説しますので、合わせてご覧ください。
まとめ
馬刺しの霜降り肉に焦点を当て、馬肉の歴史や馬の品種による肉質の違い、馬肉のおいしい食べ方について解説しました。霜降りの馬肉は、重種馬と呼ばれる種類の馬からとれ、国内では熊本県、海外ではカナダが主な生産地です。
馬肉を解凍する場合は、氷水解凍を行うことでおいしさや食感を損ねずに解凍ができます。ご家庭で霜降りの馬肉を食べる際は、ぜひこの記事のポイントを意識してみてください。
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